「おてこんだごとあるとばい」

ヨガだかルーシーダットンでだか習った、
四つんばいになり手と足互い違いに前に伸ばすポーズ、
を一生懸命さっきやってたら、
ふと、死んだばあちゃんの言葉を思い出した。
「おてこんだごとあるとばい」

ばあちゃんはすごく元気で口も立つ人だったが、
病気に罹り、やむなく左の足を股の付け根から切断した。
しゃきしゃき動く、ほんとに元気なばあちゃんだったので、
本当にかわいそうだった。
なんでも自分で出来た人が、誰かの世話にならないとどうもならん、
という事実にどれだけ傷ついただろうか。
みじめな思いと申し訳ない気持ちと。

たまに帰省したときに顔を出すと、
でもばあちゃんは以前と少しも変わらない満面の笑顔で、
僕が言うことひとつひとつに、
「そぉかい、そぉかい」と相槌を打ってくれた。
ベッドから体を起こして座るんだけど、
「座ったら左足が落てこんだごとあるとばい」
と言っていた。
付け根から無い足、
そのまままっすぐベッドに突っ込んでいるような感覚があるらしい。
無い足の感覚。
そういうものか、と僕は感心して、さみしくなった。

ばあちゃんにはなにひとつ孝行できなかった気がする。


天気:曇り